沖縄県那覇市、栄町商店街そばの暗い路地に佇む『小料理たみえ』。地元民に愛されるこの飲み屋では、ぷりゅぷりゅのてびちが入った大盛りおでんと、沖縄でとれた新鮮な魚料理を楽しめる。
ガラガラとひらく引き戸、角に設置されたテレビ、やさしそうなおかみさん、カウンター席で盛り上がる常連客。棚は個人名が書かれた泡盛の瓶で埋めつくされ、いかにも地元民憩いの場という雰囲気だ。一見さんにはやや入りづらいディープな店とも言えるが、入ってしまえば大当たり。だれでも温かく迎えてもらえる。
この日のお通しはジーマミ豆腐、もずくなど三品。それぞれの小鉢が大きくかなりのボリュームである。
刺し盛りもボリューム満点。やわらかく肉厚で甘みのある生マグロに、こりっとかみごたえのある島ダコ。おかみさんが出身地の離島からこだわって仕入れているという魚はどれも新鮮で食べ応えがある(写真は撮り忘れたため別日に食べた生マグロの刺身をのせておく)。
「ひらやーちー」という沖縄料理も大好きなメニューだ。名前の由来は「ひらたく焼く」という意味。小麦粉・卵・だしでできた生地にねぎなどを散らした沖縄の定番家庭料理である。
お好み焼きやちぢみ、クレープにも似たこの料理は、家にあるもので手軽に作れることから、台風や停電の日などに食べることが多いという。ふわふわもちもちの食感と、シンプルでありながらどこか懐かしい味わいに、沖縄の人々の温かさが染み込んでいるような気がする。
締めはやっぱり、おでんだろう。大皿いっぱいに盛られた具はどれもごろごろと大きく、出汁がよく染みている。主役は豚足をやわらかくなるまで煮た「てびち」。あつあつとろとろ、ぷるぷるの食感がたまらない。大満足で店を出た。
小料理たみえに初めてやってきたのは、沖縄に引っ越してすぐのころ。当時のわたしは慣れない土地での暮らしに不安ばかりを抱いていた。でも、この店にきて肩の力がひゅうっと抜けた。
店に流れるゆるやかな空気と、気さくなおかみさんや常連客のみなさん、地元の食材をたっぷり使ったおいしい料理。沖縄の魅力を詰め込んだような空間に身を浸し、「ここでも生きていけそうだ」と自然と思えたのだった。
ある日の帰りにはおかみさんからおみやげをもらった。さっくさくのちんすこうを食べながらやさしい夜を思い出す真昼間もまた、美しい時間だった。
<店舗情報>
小料理 たみえ
〒902-0067 沖縄県那覇市安里388−13
TEL:0988868015